「ナイキ走者」が3年で96%から43%に激減 箱根駅伝シューズ戦線
- 2024年4月12日
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第100回を迎えた箱根駅伝は青山学院大学の圧勝で幕を閉じた。その一方で、箱根ランナーたちのシューズ選びは、一時期の「ナイキ」一辺倒から再び激戦に転じている。アルペンの公表データを基に、着用シューズの推移と傾向から、スポーツブランドのマーケティングを考察する。
第100回を迎えた東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝、2024年1月2~3日開催)は、青山学院大学が往路・復路ともに制し、2年ぶり7回目の総合優勝を果たした。22年に記録した10時間43分42秒を塗り替える10時間41分25秒の大会新記録で、100回目の記念大会に花を添えた。前評判が高かったのは駒澤大学だったが、その駒大に6分35秒の大差をつけた青学の圧勝だった。
箱根駅伝においては、大学間の競争の背後で、スポーツ用品メーカー・ブランド間の競争も繰り広げられている。注目度の高い大会で自社ブランドのシューズを着用するランナーを増やして好成績を上げてもらうことが、ブランド価値を高め、趣味レベルで走る市民ランナーのシューズ選びも後押しする。
では箱根路を走ったランナーたちはどこのシューズを履いているのか。毎年、スポーツ用品販売のアルペンがオウンドメディア「ALPEN GROUP MAGAZINE」で、シューズブランド別に着用者数、およびシェアを速報している。
駅伝競技にさほど関心が高くなくても、「ナイキ」の厚底シューズが人気になっている話は聞いたことがある人も多いはず。実際、21年1月の第97回大会では、出場した210人のランナーのうち201人(95.7%)がナイキのシューズを着用した。
ナイキが市場を席巻する前後で、箱根ランナーのシューズ選定はどう変化しているか。以下が16年から24年まで9年間の出場ランナーが着用したシューズブランドシェアである。
20年に84.3%、21年に95.7%と大多数の箱根ランナーを引き付けたナイキはその後、22年73.3%、23年61.9%、そして24年は42.6%と、依然トップながらもシェアを大きく落としている。
16年の第92回大会でトップシェアだったのは「ミズノ」。スポーツメーカーで協賛しているのは同社だけで、オフィシャルグッズの販売のほか、箱根駅伝の名称を使ったPRが可能な立場にある。
以前は、ウエアの提供を受ける契約と併せてシューズもそろえる大学もあり、また選手個々のリクエストに対応しやすい国内メーカーのシューズ選択が優勢だった。16年はトップのミズノが210人中75人(35.7%)、2位「アシックス」が同60人(28.6%)と、両ブランドで3分2近いシェアを占めていた。
そこへ17年、フルマラソン2時間切りを目指すシューズとして開発された「NIKE VAPORFLY(ヴェイパーフライ)シリーズ」が登場。18年の第94回大会でナイキがアシックスを僅差でかわし27.6%でトップシェアに立った。以降、ナイキは、19年41.3%、20年84.3%、21年95.7%と、ほとんどの箱根ランナーが着用するに至る。
ナイキ旋風のあおりを受ける格好で、17年に67人(31.9%)のランナーが選んだアシックスは21年に採用ゼロ。「アディダス」も17年の49人(23.3%)から21年は4人(1.9%)に激減した。
アシックスとアディダスはその後、“打倒ナイキ”の厚底シューズを投入。ナイキはその分シェアを落とし、今なおトップながらも24年は230人中98人(42.6%)と半数を割った。アシックスは同57人(24.8%)、アディダスは同42人(18.3%)と、急ピッチでシェアを回復している。
24年の注目は“新参”ブランドの動向だ。16年~21年大会で箱根ランナーが選ぶシューズは、ナイキ、アシックス、アディダス、ミズノ、「ニューバランス」の5ブランド(20年にデサント採用が1人)だったが、22年大会で「プーマ」(1人)、23年大会で「アンダーアーマー」(1人)、24年大会で「オン」(3人)、「ホカ」(2人)、「ブルックス」(1人)が新規参入した。
ちなみに、オンは10年に立ち上がったスイスのランニングシューズブランドで、「世界で最も成長スピードの速いランニングブランド」といわれる。後述するが、今回の箱根駅伝では、エース格の選手も着用していた。
ナイキがほぼ独占した21年から3年で、シューズ競争は再び群雄割拠の時代を迎えている。ただし、確かにナイキのシェアは50%を割ったが、決してシューズの走力に陰りが見えているわけではない。
ナイキの“走力”が落ちたわけではない
21年は10区間中9区間をナイキが占めたが、24年も7区間がナイキ着用ランナーだった。23年の6区間よりも増えている。トップランナーのナイキ着用率はまだまだ高いと言えそうだ。
24年大会の区間順位3位までのシューズは「2024年、第100回大会の区間3位までの着用シューズ」表の通り。
プーマは22年1人、23年7人、24年20人と急ピッチで着用ランナーを増やし、24年は3区の城西大と10区の立教大のランナーが区間3位のタイムをマークしている。
ニューバランス着用ランナーは230人中わずか1人だったが、その1人である帝京大の7区ランナーが区間2位の記録を出した。巻き返しに弾みがつきそうだ。
そして初登場オン着用3人のうちの1人が、駒大で3区を走ったエース格、佐藤圭汰選手。同区を走った青学の太田蒼生選手が日本人初の59分台をマークしたため区間2位に終わったが、大学トップクラスの選手の着用はシェア拡大に効きそうだ。
選手の力を最大限引き出すシューズを開発 → その魅力を伝えて着用ランナーを増やす → 記録を出すことでさらに着用率を高める → 広く市民ランナーからも憧れのブランドになる――。これがスポーツシューズにおけるマーケティングである。大学間のタイムレースの背後にあるスポーツブランドの戦いにも注目していきたい。
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