ビートルズの「AI新曲」グラミー受賞 レノン氏の声抽出
- 3月8日
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【シリコンバレー=中藤玲】ザ・ビートルズの27年ぶりの「新曲」が2日、米音楽界で最高の栄誉とされる第67回グラミー賞の最優秀ロック・パフォーマンス賞を受賞した。人工知能(AI)で古いデモテープから故ジョン・レノンさんの声を抽出して作られた楽曲で、今回の受賞は音楽を評価する新基準として一石を投じる可能性がある。
受賞曲は2023年11月公開の「Now and Then(ナウ・アンド・ゼン)」。機械学習にレノンさんの声を認識させることで、レノンさんが1970年代に残したデモテープからピアノや雑音を取り除き、声をクリアに抽出した。ポール・マッカートニーさんら残るメンバーが演奏を合わせて完成させた。
90年代にも同じデモ音源で制作に取り組んだことがあったが、当時の技術では難しく頓挫していた。今回の配信後は、解散から半世紀余りたってからの「ビートルズ最後の新曲」として話題になり、全英シングルチャートで首位になった。
米音楽誌ビルボードによると、AIが支援した曲がグラミー賞にノミネートされたのは初めてという。グラミー賞の主催団体は2023年6月、人間の作者を含まずAIだけでつくった楽曲は受賞の対象外とする新ルールを設けていた。主に生成AIによる楽曲が念頭にあり、そうではなくAIを使いながらも人が主体で創作した場合は対象になる。
ビートルズの新曲は当初はAIという言葉が一人歩きし、レノンさんの歌声をAIが生成したのではないかとの誤解も広がった。マッカートニーさんは23年6月に「人工的や合成的に作られたものは何もない。
全て本物で、私たち全員が演奏している。既存の録音の一部を整理したが、これは何年も行われている」とSNSで説明していた。
2日夜の授賞式にはレノンさんとオノ・ヨーコさんの息子ショーン・レノンさんが出席し、「世界には平和と愛、そして生きていると言える1960年代の魔法が必要だ」などと喜びを語った。
音楽を自動でつくる生成AIを巡っては、AIの学習に既存楽曲を使うことで著作権侵害や盗作などの懸念が音楽業界に広がっている。米大手レコード各社は24年、生成AI開発企業に対し、著作権侵害の疑いを指摘して損害賠償などを求めて提訴した。
一方でレノンさんの声を抽出や修復したような、制作過程の一部でのAI利用は増えている。音楽制作における補助的なAI活用として、完全なAI生成の曲とは切り分けて考える必要があるとも指摘されている。
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