“一生モノ”の人間関係を築く
- 2024年11月5日
- 読了時間: 11分
昨今、人間関係の希薄化やコロナ禍などの影響で、“孤独”が社会問題化しています。
それにより、「人とつながること」の大切さが見直されています。
ビジネスパーソンなら、職場の上司や同僚、あるいは取引先との人間関係については、良好に保つための努力を日々積み重ねていることでしょう。
その一方で、友人やパートナーなど、職場を離れたところでの人間関係については、おろそかになっていないでしょうか。
様々な研究から、友人やパートナーと良好な人間関係を築くことは、人生に幸福をもたらすことが知られています。
この機会に、改めて「仕事以外の」人間関係を考え直してみてはいかがでしょうか。
著者紹介
ロバート・ウォールディンガー
ハーバード大学医学大学院・精神医学教授。マサチューセッツ総合病院を拠点とするハーバード成人発達研究の現責任者。
マーク・シュルツ
ハーバード成人発達研究の副責任者であり、ブリンマー大学心理学教授でもある。
概要
幸せな人生。それは、社会的成功をつかんだ先にあるのではない。お金で得られるものでもない。ハーバード大学の80余年にわたる科学的研究によれば、幸福の決め手は「よい人間関係」。自分をとりまく人間関係を把握し、大切な人とよい関係を築くことだという。本書は、その重要性を説き、具体的な方法をアドバイスする。
要約
幸せな人生の条件とは?
本書はしっかりとした科学的研究に基づいている。その中心は「ハーバード成人発達研究」だ。
1938年に始まったこのプロジェクトは、人の健康を研究するのに病気の要因ではなく生きがいに着目した、当時としては画期的な研究で、子ども時代の苦労や初恋から晩年の暮らしぶりまで、被験者の人生の変遷を記録してきた。
研究は今も続いており、人の生き方に関する史上最長の縦断研究になっている。
人生における最高の投資とは
ハーバード成人発達研究は、人々の健康と幸福を維持する要因を解き明かすため、膨大な質問と様々な測定方法を活用し、同じ被験者群を84年間、追跡調査してきた。すると、身体と心の健康、長寿との関連性において、決定的な因子が浮かび上がってきた。
それは、人々の想像に反し、社会的成功や運動習慣、健康的な食生活ではなかった。「よい人間関係」だ。
つまり、健康で幸福な人生を送るための唯一無二のベストな選択は、友好的な人間関係を育むことだ、と科学は答えている。
なぜ人間関係が重要なのか
誰かを愛しく思う時に身体で感じる感覚、ぬくもりと安らぎを思い浮かべてほしい。
激しいものからかすかなものまで、感情はすべて生物学的プロセスとつながっている。お腹に食べ物が入ると脳が反応して嬉しいと感じるが、他者とポジティブな交流をした時にも脳は同じように反応する。
「今は安全だ」というメッセージが身体に伝わり、神経の興奮が鎮まって幸福感が高まる。こうした反応は、長年の進化の賜物だ。
先史時代の人類は、現代人の想像を絶する大きな脅威に日々さらされていた。原始的な技術では厳しい自然や捕食動物の脅威に太刀打ちできず、怪我や病気の治療法もないに等しかった。
それでも、人類は生き延びた。なぜか?
大きな理由の1つとして、初期ホモ・サピエンスには生存競争を勝ち抜いた多くの動物種と共通する特徴があった。身体と脳が仲間との協力を促すよう進化していたのだ。
「人間には心の通う関係が必要不可欠だ」という言葉はきれいごとではない。厳然たる事実だ。
数々の科学研究が繰り返し伝えてきた事実がある―― 人間には栄養が必要で、運動が必要で、そして仲間が必要なのだ。
人間関係が良好な人ほど、死亡リスクが低い
人間関係は死亡リスクとも関連性がある。
2010年、ジュリアン・ホルト=ランスタッドらが、世界各地で実施された148件の研究(合計被験者数30万人以上)を分析した結果、年齢層、性別、民族を問わず、よい人間関係と長寿には強い正の相関があった。
驚くことに、どの年のデータでも、良好な人間関係は生存率を50%以上高めていた。
全研究を通してみると、他者とのつながりが最も少ない人の死亡率は、つながりが最も多い人に比べ、男性で2.3倍、女性で2.8倍高かった。
これは、喫煙とがんの相関に匹敵する強い相関だ。
よい人生を動かすエンジン
人間関係の実利的価値は、近代以降、正当に評価されていない。人間関係は人生の基礎であり、人間の行動と存在の中心をなすものだ。
収入や仕事の成功など、一見、人間関係とは無縁に思えるものでも、実のところ人間関係から切り離すのは難しい。評価してくれる人が周りに誰もいなかったら、仕事で成功しても意味がない。
よい人生(グッド・ライフ)を動かすエンジンは自分自身だ、と信じる人はいるが、それは違う。むしろ、他者とのつながりこそがエンジンだ。
ソーシャル・フィットネス
「ソーシャル・フィットネス」という言葉がある。人間関係の健全度を指す言葉だ。
私たちは、友情や親密な関係を築いた後は何もしなくても大丈夫だ、と考えがちだ。しかし、筋肉と同じで、何もしなければ人間関係も衰えていく。だから、エクササイズが必要だ。
ソーシャル・フィットネスを高めるには、振り返りが必要だ。慌ただしい生活から少し離れ、人間関係を振り返り、自分は幸せをもたらすつながりを大切にしているか、率直に見直す必要がある。
ソーシャル・ユニバースを描いてみる
では、自分をとりまく人間関係をしっかりとらえるには、どうしたらよいのだろうか?
まず、「自分の人生には誰がいるのか?」を考えてみよう。おそらく家族や恋人、親友など、大切な人がすぐに頭に浮かぶだろうが、最も「重要な」関係やうまくいっている人間関係だけを考えてはいけない。よくも悪くも自分に影響を与えている人をリストアップする。例えば、上司や同僚など。
リストをつくったら、「これらの人間関係の特徴は何か?」を考えてみよう。
自分の人間関係の全体図を把握するには、相手との交流の「質」と「頻度」を考える必要がある。
下の図は、この2つの面から自分の人間関係の全体図 ―― 「ソーシャル・ユニバース」 ―― をとらえるのに役立つ。
その人との関係によってどのくらい自分が元気をもらえたり消耗したりするのか、どのくらいの頻度で交流しているかによって、この図の適切な位置に名前を書き込んでいく。

「元気をもらえる」関係は、自分に力を与えてくれ、離れていても、つながっている感覚が続く。
「消耗する」関係とは、緊張や不満、悩みを誘発し、一緒にいると気力さえなくなる関係だ。
自分の人間関係を図の中のふさわしい位置に書き込みながら、それぞれの関係について考えてみよう。この人にはもっと頻繁に会いたいとか、こっちの関係は消耗するけれど重要だから特別に注意を払うべきだ、と気づくこともあるだろう。
人生を支えてくれる人間関係を把握する
自分の人間関係全体をどう感じているかは、他者から何を受け取り、他者に何を与えているかに直結している。
ハーバード成人発達研究では、長年にわたり、被験者に他者からの様々な支えについて尋ねる質問を行ってきた。代表的なものをいくつか見てみよう。
・学習と成長
自分が新しいことに挑戦する時や人生の目標を追い求める時に、応援してくれるのは誰ですか?
・親密さと信頼
落ち込んでいる時に電話して、自分の気持ちを率直に話せる相手は誰ですか?
・楽しさとリラックス
一緒にいるとリラックスして心が落ち着き、絆が感じられる人は?
自分に大きな影響を与えている人間関係から、自分にとって大事だと思える支えが十分に得られているかどうか振り返ってほしい。人生に何らかの不満がある場合、この振り返りにおいて欠落している項目と一致していないだろうか?
順調な関係から振り返ろう
こうした振り返りを行うだけでも自分が目指したい方向が見えてくるが、それがわかっても、最初の一歩を踏み出すのはそう簡単ではない。
この一歩を踏み出すにはまず、順調な関係に注目しよう。元気をもらえる関係に目を向け、こうした関係の長所をさらに高め、確実にする方法を考えよう。
相手に心からの感謝を伝え、その理由も伝えよう。順調な人間関係であっても、停滞を感じる部分やテコ入れの必要な部分があるものだ。
次に、元気をもらえる関係と消耗する関係を分ける線上に位置する関係について考えてみよう。
少し刺激を与えて、今以上に元気をもらえる関係にする方法はないだろうか。ちょっとした変化によって、積み重なっていた小さな心の負担が軽くなることもある。
消耗すると感じる関係については、じっくり振り返る必要がある。普段は連絡しない相手にメールを送ったり、会う計画を立てたりするなど、思い切った行動をとる必要もあるかもしれない。
人生への最高の投資
ハーバード成人発達研究では、80代の夫婦にこれまでの人生を振り返ってもらった。その際、ほぼすべての人が、時間の使い方を後悔していた。
「子どもたちに十分な注意を払ってあげられなかった」「重要でないことに時間を費やしすぎてしまった」という思いを抱く人がいた。
ここで、時間を「費やす」、注意を「払う」という動詞に注目してほしい。
言語には経済用語が多いため、こうした言葉の使い方は自然だと思えるが、時間と注意には、言葉が意味するものをはるかに超える、かけがえのない価値がある。
時間と注意は後から補充することができない。時間と注意を相手に差し出す時、私たちは自分の命を相手に与えているのだ。
「注意」と「気配り」こそ、人生の本質だ
では、人生の中で人間関係に注意を向けるとは、実際にはどのようなことだろうか?
一例として、高校教師のレオ・デマルコのケースを見てみよう。ハーバード成人発達研究の被験者の中で最も幸福な男性の1人と見なされている人物だ。
レオは高校教師として多忙を極めていたため、週末を必ず子どもらと過ごせるわけではなかった。家族はレオと一緒にいるのが大好きだった。その分、離れていると寂しさが募ったという。
こうした状況は、多くの人を悩ませている難しい課題だ。しかし、解決不能というわけではない。
長女のキャサリンに父との一番の思い出を尋ねると、一緒に出かけた釣り旅行のことを話してくれた。レオは毎年、夏休みに自分の子どもを1人ずつ、釣りのできるキャンプ場に連れていき、1週間をともに過ごした。
そして、ただ釣りをするだけでなく、彼女に注意深く気を配り、毎日の生活のことや彼女が考えていることを尋ねてくれた。
レオは、妻のグレースにもしっかりと注意を向け、気を配っていた。夫婦でどんな活動をしているかと尋ねられたレオは、こう答えている。
―― 妻とは一緒にガーデニングを楽しんだり、散歩して景色のことを話したりしています。昨日はハイキングをしました。森の奥深くで、小川からカモが飛び立つのを眺めたりしました。夫婦でそういう瞬間をともにしています。
これらはレオの日常に起こる小さな出来事だが、一生涯を通じて積み重なれば大きな意味をもつ。「注意は愛の最も基本的な形だ」と言われる。
彼が被験者の中で注意を向けることに長け、なおかつ最も幸福度が高い人物であることは偶然ではない。
毎日、ほんの少しずつ注意と気配りを増やそう
大切な人に対して十分な注意を向けているかどうかを確認するには、自分自身をよく観察する必要がある。ここでは簡単な方法を3つ紹介しよう。
1つ目は、人生を豊かにしてくれる人間関係を1つか2つ思い浮かべ、相手に今まで以上の注意を向けること。
2つ目は、1日の過ごし方を少し変えること。特に、大切な人と一緒にいる時には、注意が途切れない時間をつくること。
夕食にはスマホを持ち込まない。あるいは決まった相手と毎週または毎月、定期的に会う時間をもつ。
3つ目は、誰かと過ごす時には好奇心を忘れないこと。
よく知っている相手に対しては、特別に意識してみよう。「今日はどうだった?」「別に」というやりとりで会話を終わらせず、真摯な関心を寄せること。
注意を向け、気を配るとは、その瞬間を生きている相手を尊重し、敬意を払うことだ。自分自身に注意を向け、自分の生き方、自分が将来たどりつきたい場所を確認すれば、最も注意を向ける必要があるのは誰なのかが見えてくる。
注意は最も価値ある資産だ。注意をどう使うのかは、このうえなく重要な決断だ。幸いなことに、その決断は、今この瞬間、そして人生のあらゆる瞬間に下せるものなのだ。
まとめ
●人の生き方に関する史上最長の縦断研究、「ハーバード成人発達研究」によると、健康と幸福を維持する決定的な因子は、社会的成功や運動習慣、食生活ではない。「よい人間関係」だ。
●友情や親密な関係は、何もしないと衰える。「ソーシャル・フィットネス」(人間関係の健全度)を高めるには、人間関係を振り返り、つながりを大切にしているか、見直す必要がある。
●自分をとりまく人間関係をとらえるには、次のことを考える。
・自分の人生には誰がいるのか
よくも悪くも自分に影響を与えている人をリストアップする。
・これらの人間関係の特徴は何か
交流の「質」と「頻度」の2つの面から、自分の人間関係の全体図を把握する。
●人間関係全体の感じ方は、他者から何を受け取り、何を与えているかに直結する。
人生に不満がある場合、挑戦を応援してくれる人や、一緒にいるとリラックスできる人はいるかなど、他者から十分な支えが得られているかどうか、振り返るとよい。
●「注意」は、人間が持つ最も価値ある資産だ。注意を相手に向け、気を配るとは、その瞬間を生きている相手を尊重し、敬意を払うこと。
注意をどう使うのかは、極めて重要な決断だ。
●大切な人に十分な注意を向けるための方法は、次の3つだ。
①人生を豊かにしてくれる人間関係を1つか2つ思い浮かべ、相手に今まで以上の注意を向ける。
②大切な人と一緒にいる時には注意が途切れない時間をつくるなど、1日の過ごし方を少し変える。
③誰かと過ごす時は好奇心を忘れないようにする。
投稿責任 社長
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