地震で転倒の輪島市ビル、杭抜けた痕跡 下部構造破壊か
- 2024年5月18日
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筋能登半島地震で震度6強の揺れを観測した石川県輪島市。市の中心部では鉄コンクリート(RC)造の7階建てビルが転倒、近隣に立っていた木造3階建ての店舗兼住宅を押しつぶすという、極めて異例な被害が出た。
建築の研究者が現地入りして状況確認を行っているが、転倒メカニズムはまだ明らかになっていない。日経クロステックの取材班は2024年1月5日に現地を取材し、転倒の原因を探った。
転倒したのは、漆器の製造販売を営む企業のビルだ。
この企業のウェブサイトによると、大正期に創業し、業容拡大を受けて1972年に法人登記、同年に工場兼店舗として地下1階・地上7階建てのこのビルを建設した。地下部分については「現在埋設」との記載があった。
現場は輪島市河井町の河井小学校前交差点近く。敷地付近では幹線道路の国道249号が東西方向に走っており、ビル南側が国道に面していた。転倒方向は東側で、国道へ倒れ込む事態だけは免れた。
ただ、東側には市内を南北方向に貫く「錦川通り」があり、ビルに押しつぶされた店舗兼住宅がこの通りに倒れ込んだ。
横倒しになった建物を南側から見ると、ビルは上部構造の原形をほぼ保ったまま、4階まで地下にもぐり込んでいた。西側に回り込むと基礎底面があらわに。基礎梁(はり)がひび割れ、内部の鉄筋が露出していた。
フーチング裏面に杭の痕跡である丸いくぼみがあったが、杭はついておらず引き抜けたと見られる。ビルが立っていた敷地は土で埋まっており、杭の存在は目視で確認できなかった。
東京大学地震研究所が24年1月8日付で公表した「2024年能登半島地震被害調査速報」によると、転倒したビル内部の柱は巻き立て補強されていた可能性がある。調査速報は転倒について、次のように記している。
「圧縮側をみると、地面の下までめり込んでいる。建物の地下部にも構造物があり、上部構造の圧縮側では地下部で破壊が生じて、それが建物の転倒を助長したと思われる。
建物は耐震補強されたとの情報もある。1階を見る限り、転倒した方向にはあまり壁は存在しない」
耐震工学が専門の和田章名誉教授が解説
耐震工学が専門の和田章・東京工業大学名誉教授によると、建築分野で杭の耐震性がクローズアップされたのは1978年の宮城県沖地震以降。それまでの杭は、圧縮力を負担する前提の下、上部構造につながっていないのが一般的だったという。
和田名誉教授は、「フーチングに残った痕跡を写真で見る限り、杭は径が細い『A種』の既成杭だったのではないか。圧縮側の杭が過大な力で圧壊し、最終的に全体が転倒してしまうほどの傾きをもたらした可能性がある」と考察する。
近隣では複数のビルが大きく傾く
転倒したビルの近隣では、複数のビルが目視で分かるほど大きく傾いていた。例えば、輪島高校西交差点の角地に立つビルがその1つ。前出の転倒ビルとは別の漆器製造販売企業のビルだ。この企業のウェブサイトによると、ビルは1977年に完成した地上7階建て。RC造と見られる。
輪島市中心部では大規模火災が発生したほか、住宅や店舗など木造の低層建築物が多数倒壊、被害の全体像はまだ明らかになっていない。
(ライター 池谷和浩、日経クロステック/日経アーキテクチュア 佐々木大輔)
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