新紙幣、渋沢栄一以外は誰?いつから流通? 知りたい10の疑問
- 2024年7月19日
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この記事の3つのポイント
新紙幣が20年ぶりに、7月3日に発行される
キャッシュレス化が進むが、現金流通高は増えている
入手方法や偽造防止技術、対応コストなどを解説する
日本銀行は7月3日、20年ぶりに新紙幣を発行する。「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一を肖像とする1万円札のほか、5千円札、千円札の3種の紙幣のデザインが変更される。新紙幣の発行はなぜ行われ、現行紙幣は継続して使えるのかなど、知っておきたい10の疑問をまとめた。
1:なぜ今、新しい紙幣が発行される?
2:デザインはどう変わる?
3:新紙幣はどうすれば手に入る?
4:新紙幣の発行はどこが決めた?
5:偽造防止にはどんな技術が使われている?
6:新紙幣発行にかかる費用は?
7:新紙幣発行に伴う、日本社会の更新コストは?
8:新紙幣の発行量は?
9:キャッシュレス化が進んでいるが、紙幣は今後も利用される?
10:現行の紙幣はいつまで使える?
1:なぜ今、新しい紙幣が発行される?
新紙幣を発行するのは、偽造防止対策の強化と、誰にとっても使いやすくする「ユニバーサルデザイン」の向上のためだ。紙幣のデザインを変更する「改刷」は、偽造防止のために20年ほどの間隔で定期的に行われてきた。
偽造防止技術では、 見る角度によって肖像の向きが変わる「3D(3次元)ホログラム」や模様をさらに細かくした「高精細すき入れ(すかし)」などの新技術を取り入れた。表面の額面表記も、「壱万円」から「10000」とアラビア数字に変更し、外国人も使いやすいデザインにした。
2:デザインはどう変わる?
1万円札は渋沢栄一、5千円札は津田梅子、千円札は北里柴三郎が、それぞれ新たな肖像となり、デザインが変更される。
渋沢 は「日本資本主義の父」と称され、約500社の企業の設立や経営に関わった。津田は6歳の時に日本最初の女子留学生として岩倉使節団とともに渡米。女子英学塾(現津田塾大学)を創立した女子教育のパイオニアだ。北里は細菌学者として破傷風などの研究に従事、「近代日本医学の父」と呼ばれる。
デザインは専門家などの助言を得て財務省が決定した。財務省によると、肖像は、①明治以降の人物であること、②精密な写真が入手できる人物であること、③品格があり国民に広く知られている人物であることを条件に選んでいるという。
裏面は、1万円札が東京駅(丸の内駅舎)、5千円札は藤の花、千円札には冨嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」がデザインされる。
紙幣を取り扱う機器の改修の負担を抑えるため、紙幣の大きさは変えない。
紙幣の色味については、紙幣の種類を識別する手掛かりになるため、主体色(1万円札:茶、5千円札:紫、千円札:青)については、現行紙幣を踏襲した。
新紙幣ではさらに、視覚障害者がより 5千円札と千円札を識別しやすくするため、 千円札の中央部分には橙色のグラデーションを配置している。
3:新紙幣はどうすれば手に入る?
日本銀行の本支店を訪れても新紙幣を入手することはできない。新紙幣は、発行を始める7月3日以降、日本銀行から、金融機関の倉庫に発送され、そこから各行の支店に送られる。このため、朝一番に金融機関の窓口に出向いても、必ずしも新紙幣を入手できるとは限らない。
三菱UFJ銀行は、本店、大阪営業部、名古屋営業部では7月3日中に新紙幣の新券との両替を開始。それ以外の支店は4日以降に開始する。
三井住友銀行、みずほ銀行は原則として7月4日以降、準備が整い次第開始する予定だ。現金引き出しをすると、窓口、ATMで新紙幣と現行紙幣が混在するという。
渋沢生誕の地である埼玉県を地盤とする埼玉りそな銀行は7月3日、早ければ同日昼前後から約100店舗で新紙幣の新券との両替を始める。りそな銀行の一部の支店でも同日中に対応を開始する。
4:新紙幣の発行はどこが決めた?
決定したのは財務省だ。紙幣の発行に関わっているのは財務省、日本銀行、独立行政法人国立印刷局の3機関。
財務省は改刷の決定機関だが、新紙幣の発行主体は日銀だ。
日銀が紙幣の製造を印刷局に発注し、製造した紙幣を国立印刷局から日銀が引き取り、管理する。
一方、貨幣の発行主体は財務省で、独立行政法人造幣局で貨幣が製造される。紙幣と貨幣で発行主体が異なるのは、日本銀行の成り立ちとかかわっている。
1877年の西南戦争勃発の際、明治政府は大量の不換紙幣を発行し、激しいインフレーションが発生した。その際の教訓から、政府から独立した金融政策を行うために日本銀行が設立された。紙幣は貨幣よりも金額が大きく重要度が高いため、紙幣の発行主体が政府から切り離された、ということだ。
5:偽造防止にはどんな技術が使われている?
大きな特徴は、3Dホログラムと高精細すき入れと呼ばれる技術だ。3Dホログラムの紙幣への採用は世界で初めて。見る角度によって肖像の顔の向きが変わり、回転しているかのように見える。
高精細すき入れは、紙に光を当てた時に浮かび上がる模様「すかし」のことで、紙幣の中央部に施される。従来は肖像のすかしだけだったが、新紙幣ではその周囲に高精細なすかしの模様を入れている。
市販されているコピー機の印刷技術は向上しているが、ホログラムやすかしをコピー機で再現するのは難しい。財務省は、こうした技術の導入で一層の偽造防止を目指す。
6:新紙幣発行にかかる費用は?
財務省によると、改刷に伴って印刷機などを入れ替える必要があり、それらの初期投資費用として約70億円がかかったという。
財務省は毎年4月1日に日本銀行券製造枚数の計画を定め、2024年度は計29億5000万枚の紙幣が印刷される予定だ。国立印刷局の24年度収支計画では、製造関連費用に92億円を計上。
新紙幣は1枚あたり約20円で印刷されている計算になる。
国立印刷局では改刷にかかわらず、継続して偽造防止技術の向上に取り組んでいる。同局によると技術向上のための研究開発費として19~23年度の5年間で158億円を計上していた。
7:新紙幣発行に伴う、日本社会の更新コストは?
決済システムのメーカーなどでつくる「日本自動販売システム機械工業会」は、23年1月の試算で、対応する設備更新費用を約5100億円と見込んでいる。
新紙幣の発行を発表した19年当初は約7700億円を見込んでいたが、自動販売機など現金を扱う機械の台数自体が減ったこと、また紙幣の大きさなどに変更がないことが分かり、機械本体を入れ替えなくても部品交換やシステムの書き換えで対応できると判明したため、当初より費用が少なくなった。
8:新紙幣の発行量は?
発行量は公表されていないが、日本銀行が倉庫に備蓄している新紙幣の枚数は公表されている。実は、22年から印刷局では新紙幣の印刷が始まっており、発行直前の24年6月末時点では備蓄が約52億枚となる見込み。
備蓄の内訳は1万円札が約29億枚、5千円札が約3億枚、千円札が約20億枚。前回改刷時(04年)の備蓄量は約50億枚と今回とほぼ同じだった。
財務省によると、前回改刷時、新紙幣は発行開始から1年間で全体の流通量の6割を占めるまで利用が広がったという。
9:キャッシュレス化が進んでいるが、紙幣は今後も利用される?
「今後も現金に対しては一定のニーズが見込まれる」と財務省の新紙幣担当者は話す。実は、現金流通高は増加傾向にある。22年の現金流通高は約130兆円と1995年比で2.6倍になった。
背景には低金利によるタンス貯金の増加がある。
国内の現金流通高のうち、家計部分の流通が増加している。券種別では、1万円札の流通枚数が他の券種と比較して増えている。
低金利が長期間続き、銀行に預金しておくよりも、家庭で現金を保管して銀行やATMに足を運ぶ手間を減らす方が、メリットが大きいと考える人が増えたとみられる。
キャッシュレス決済額も年々増加傾向にあるが、市中の現金ニーズは根強い。
災害時にも、現金は重宝される。停電が起きると、システム障害などによって小売店の電子決済システムなどが使えなくなるからだ。
10:現行の紙幣はいつまで使える?
現行の紙幣は、期限なく使い続けることができる。財務省担当者は、「現行の日本銀行券は引き続き通用する。
『使用できなくなる』などとかたる詐欺行為に十分注意してほしい」と話す。
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