狙われたマンション修繕積立金、管理委託に潜むリスク
- 2月21日
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マンション修繕積立金の横領事件が後を絶たない。共働き家庭の増加や入居者の高齢化に伴い、管理組合業務を外部委託する需要が高まった。不正リスクを排除し資産を守るには、住民自らチェックを担う仕組みが欠かせない。
「住民にどう説明すれば……」。約1年前、大阪府内にあるマンション管理組合の理事を務める女性は、修繕積立金を管理する定期口座の残高がゼロになっているのを知り、がくぜんとした。毎年、総会で示される預金残高証明書が偽造され、不正に気付けなかったという。
被害額は1億円超。管理会社のビケンテクノ側から、女性が住むマンションの担当をしていた元課長の男(68)=懲戒解雇=が組合から預かった通帳を使って金を無断で引き出していた疑いがあると説明を受けた。被害は弁済されたものの「総会に参加する住民はごくわずか。通帳の確認すらしておらず、油断していた」と反省する。
ビケンテクノが2024年2月に公表した調査報告書によると、男は管理組合の出納や理事会のサポートなどの業務に従事。
9年間で計14のマンション管理組合の口座から無断で9億円超の資金に手を付けていたという。
大阪府警は1月、別の大阪市内のマンション管理組合の口座から修繕積立金など計約4700万円を着服したとして、この男を業務上横領容疑で逮捕。
2月12日にも、同市の別の管理組合から計約4500万円を着服した疑いで再逮捕した。なぜこれほど多額の資金が長期間にわたって発覚を免れながら着服され続けていたのか。
マンション管理適正化法は、管理会社が組合口座の通帳と印鑑をセットで保管することを禁じる。
通常は住民代表の組合理事長らが銀行印を管理し、管理会社が修繕費などを出金する際はチェックできる態勢がとられている場合が多い。
だが男は担当していた管理組合のうち約半数の銀行印と通帳を自分で管理。社内には当時、管理業務を担う社員を監視・監督する立場の者がいなかったため、法令に違反している状況を把握できなかった。
被害に遭った管理組合側も通帳の開示を求めておらず、男が信頼を逆手に不正を重ね続けた実態が浮かぶ。
こうした事例は各地で起きている。23年6月には、埼玉県内のマンションの管理費約1200万円を着服したとして、ビルメンテナンス会社の担当者が業務上横領容疑で警視庁に逮捕された。
一般的に、分譲マンションの管理組合は住民らが輪番で役員を務め、理事会でルール整備や共用部の修繕について定期的に話し合う。
近年は多忙な共働き世帯の増加や住民の高齢化を背景に、従来のような出納業務だけでなく理事会機能そのものを丸ごと管理会社に外部委託する「第三者管理方式」を導入する事例が増えている。
マンション管理に関する国内市場は拡大しており、矢野経済研究所(東京・中野)によると、22年は約8200億円と13年から27%増加。30年には9700億円を超えると予測する。
横浜市立大学の斉藤広子教授(マンション管理学)は「マンションの管理は各戸の資産価値にも影響するだけに、外部委託による業務の効率化を図りつつ、住民自身による監視機能をどう維持していけるかが横領被害などを免れるカギになる」と指摘する。
理事会資料の共有や総会の議決権行使をオンライン化するなど、組合運営への心理的ハードルを下げる工夫も広がっているとしたうえで「業者側に丸投げするのではなく、自分たちの資産は自分たちで守るという意識が求められる」と話す。
進む老朽化、「修繕積立金が不足」3割
分譲マンションの区分所有者は、建物の外壁や屋根、エレベーターなどの共有部分を適切に維持管理していくために毎月定額を積み立てている。
これが修繕積立金で、将来見込まれる修繕工事などを盛り込んだ長期修繕計画に基づいて設定される。
国土交通省によると、23年末時点の分譲マンション総数は約704万戸で、居住者数は約1500万人と推計される。
このうち築40年以上は約136万戸。老朽化が進むなか、実際の修繕積立金が計画に比べて不足しているというマンションは全体の36%に及ぶとの調査もある。
積立金の徴収方法には毎月の積立額を変えない「均等積立方式」と、数年おきに積立金の額を引き上げる「段階増額積立方式」がある。近年は新築当初の負担が少ない段階式を採用するマンションが増えているが、築年数の経過に伴う増額幅が想定より大きくなり支払いが困難になるケースも少なくない。
同省は24年6月、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定。区分所有者から段階的に徴収する場合の最終額を均等で割った場合の1.1倍以内に抑えることを推奨し、計画的な積み立てを促している。
投稿責任 社長
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