省エネ住宅に手厚い補助、「性能表示ラベル」も商機に マンション・戸建て 価格高騰の先を読む2023年12月19日
- 2024年2月1日
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最近はZEH水準のマンションも増えてきている(東京・世田谷の「Brillia 弦巻」)
価格高騰が続くマンションや一戸建て住宅。今後の動向や資産性などに関するポイントを、リクルートの池本洋一・SUUMO編集長が解説する。
2025年4月に住宅の省エネ基準適合が義務化され、さらに遅くとも30年にはその基準が「ZEH(ゼッチ)水準」に引き上げられる。省エネ基準からさらに20%消費エネルギーを削減するのがZEH水準で、
当面の住宅市場はこの水準を達成するのが目標となる。そこで今回は、住宅の省エネ化に向けた国の政策について紹介したい。
日本の住宅の省エネ性能は、諸外国と比較して低いといわれている。国土交通省の資料によると、18年時点で省エネ基準を満たしている住宅は全体の1割と推計されていた。
国は、新築・既存それぞれの住宅の省エネ性能を高めるために、様々な施策を講じている。
消費者にとってわかりやすいのは税控除や補助金の構成だ。
これらは住宅の省エネ化を推進したい国から、消費者や事業者への「メッセージ」と考えることができる。
ZEH住宅増加へ手厚い税控除・補助金
まずは税控除。執筆時点では24年の税制改正大綱がまだ正式発表されていないため、23年の内容をベースに話をする。
新築の場合、住宅ローン控除額が最も大きいのは長期優良住宅と低炭素住宅で、次いでZEH水準を満たした住宅が手厚くなっている。
23年12月末までの入居だと、最大控除額は長期優良住宅・低炭素住宅で455万円、ZEH水準で409万5千円、省エネ基準適合住宅で364万円、その他の住宅で273万円と差がある。
次に補助金を紹介する。「こどもエコすまい支援事業」の後継、「子育てエコホーム支援事業」が実施される。
子育て世帯・若者夫婦世帯による省エネ性能が高い新築住宅の取得や、既存住宅の省エネ改修などを支援する事業だ。長期優良住宅を新築した際には100万円、ZEH水準住宅の場合は80万円の補助が出る。
一連の税控除や補助の内容をみると、ZEH水準を達成する住宅をいかに増やしていくかに国の政策がシフトしていることが分かる。こうしたことは住宅事業者だけでなく、購入者も意識すべきだろう。
既存の住宅では、省エネ化のリフォームへの補助が手厚い。
その1つが「先進的窓リノベ事業」だ。高性能の窓への交換や内窓の設置に補助金が出る制度で、全ての既存住宅が対象になる。
補助は費用の2分の1相当、上限は200万円だ。リフォーム会社の見積もりによっては実質的な自己負担が2〜3割になるケースもある。
この制度は23年から始まり、当初は申し込みが殺到して窓の製造が間に合わないほどの人気ぶりだった。そして24年も延長して実施することが決まった。
2つ目の補助対象は「給湯省エネ事業」だ。住宅で使うエネルギーの4分の1は給湯が占める。省エネ効果が高い給湯器への交換について、一定額の補助金が出る。この事業も24年に延長される。
さらに「既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業」も実施される。従来の給湯器から、
「エコジョーズ」と呼ばれる潜熱回収型ガス給湯器に取り換えると、追いだき機能なしで5万円、ありなら7万円補助される。
この補助によって従来型給湯器とエコジョーズの取り換えによる差額がかなり埋まるため、使わない手はない制度だ。
ラベルは新築で努力義務化
国の省エネ住宅推進の施策は税控除や補助金にとどまらない。
24年4月以降、新築建築物の販売・賃貸の際に、広告などでの省エネ性能表示が努力義務化される。
それに先駆けて23年9月には、国交省から省エネ性能表示に関する告示とガイドラインが公表された。省エネ性能を表示するラベルの掲載などが柱だ。
省エネ性能表示制度は、弊社も理事をつとめている不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)が制度設計の黎明(れいめい)期から深く関与している。その理由は、この制度がカーボンニュートラルを目指す住宅政策の中でも重要だと考えたためだ。
表示制度が形骸化せず消費者の目に着実に届くためには、売り主や貸主が省エネ性能ラベルを発行するだけでなく、住宅を販売・仲介する事業者がポータルサイトにラベルを表示することが必要である。
そのためには消費者と不動産業界の双方を見ている我々のようなポータルサイト事業者が、制度設計の中で助言やサポートをすることが有益であろうとも考えた。
具体的な制度の中身についても説明したい。まず省エネ性能ラベル表示の努力義務の対象となるのは、新築分譲マンション、新築分譲一戸建て、新築の賃貸住宅だ。
中古マンションや中古一戸建ては義務は課されていないものの、ラベルの掲載は可能となっている。また、新築時にこのラベルを取得している物件は、中古で再販する際にラベルを使用することができる。
今回の制度は「罰則」付きだ。ラベルを掲載する意思がないと判断された事業者は、国土交通大臣から勧告などの措置を受ける。
住宅の省エネ性能ラベルの例(国交省ホームページより)
消費者サイドからみると、このラベルによって3つのことがわかる。
1つ目は住宅の「エネルギー消費性能」。
星1つで省エネ基準の達成、それから星が1つ増えるごとにエネルギー消費量が10%減るという指標となっており、最大(星6つ)の物件は50%削減になる。
次に「断熱性能」だ。7段階に分かれており、省エネ基準達成は4段階目となる。ちなみにZEH水準はエネルギー消費性能で星3つ、断熱性能で5段階目を満たすものとなっている。
3つ目が「目安光熱費」。電気、ガス、灯油の使用によってどのくらいの費用が必要か、目安がわかる。
では、省エネ性能ラベルの表示は広告効果にプラスになるだろうか。SUUMOの物件広告で「ZEH」や「省エネ」を謳っているものを、そうでない物件と比較したところ、問い合わせ件数は新築マンションで1.6倍、新築一戸建てで1.5倍、賃貸で1.8倍となった。省エネ性能の高さは消費者へのアピールポイントになっている。
「性能体感キッズ」は省エネ住宅を重視
今後は、省エネ性能ラベルの重要性がさらに高まるとみられる。私が「性能体感キッズ」と呼んでいる、2000年以降に建てられた品質の良い住宅で育った若者たちが10〜20代となり、賃貸や売買市場の中心プレーヤーになろうとしているからだ。
この世代は性能の良い住宅で文字通り「ぬくぬく」と育った。あまりに冬が寒い・夏が暑い家はあり得ないという感性をもっており、住宅性能について関心が強い。住宅の省エネ性能表示は新たな商機になり得るという点を、住宅に関わる事業者には意識していただきたい。
国土交通省の既存住[日経ヴェリタス2023年12月17日号
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