木造はここまできた! 木造高層ビルの建設ラッシュ。 都市に森をつくる“都市木造”が当たり前になる時代へ
- 7 日前
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住まいと暮らしのライター
目次
本日は、上記の目次の中から①.木造高層ビルの建設ラッシュ、②.新しい木材需要を生み出す “都市木造”、③.“都市木造”は巨大な貯木場。木ならではの循環に目を向けるについてご紹介いたします。

①.木造高層ビルの建設ラッシュ
最近、木造の高層ビルが増えたと感じている人は少なくないだろう。
2021年に東京・銀座にヒューリック株式会社が木造ハイブリッド構造の地上12階建て高層ビルを建設。2022年には株式会社大林組がすべての構造部材(柱・梁・床・壁)を木材とした地上11階建てのビル「Port Plus」をつくり、日本初の高層純木造耐火建築物を完成させた。
すでに完成しているもののほかに、第一生命保険株式会社は東京都中央区京橋に木造ハイブリッド構造の地上12階建て賃貸オフィスビル「京橋第一生命ビルディング(仮称)」の施工を進め、近く竣工する予定。
2026年9月 には、三井不動産株式会社が日本橋に地上18階建て・高さ84m・延床面積約2万8,000 m2のビルを計画し、すでに着工している。渋谷マルイは構造の約60%に木材を使用した地上9階建ての新店舗を建設中。日本初の本格的な木造商業施設として2026年にオープンする予定だ。
また、東京海上ホールディングス株式会社および東京海上日動火災保険株式会社の本店ビルが2028年に竣工予定。完成すれば地上20階建て、高さ100メートルの国内最大規模の高層木造ハイブリッドビルとなる。
さらに、住友林業株式会社は2041年を目標に、地上70階建て、高さ350mの木造超高層ビルを実現するための研究プロジェクト「W350計画」構想を打ち出している。
こうした都市における大規模木造建築は、“都市木造”と呼ばれる。増えてきた“都市木造”について、木造建造物の構造・木質構造デザイン工学の研究を行い“都市木造”をけん引する東京大学生産技術研究所の腰原幹雄教授に話を聞いた。
※以下「」は腰原氏談
②.新しい木材需要を生み出す “都市木造”
“都市木造”という概念が誕生したのは20年ほど前のこと。
まずは、背景となっている国内の木材事情について説明しておこう。
戦後の復興から高度成長期にあたる1970年代までは木材の需要拡大期を迎えており、1973(昭和48)年には木材総需要量が過去最高を記録。需要に応えるべく、山には成長の早いスギやヒノキといった針葉樹が植えられた。しかし、成長が早いといっても木は木材として使用できるまでに50年かかる。主伐期を迎えた2000年ごろには、すでに木造の主役は安価な輸入材にとってかわっており、大規模な建築物は鉄骨や鉄筋コンクリートでつくられるのが一般的となっていた。
時代の移り変わりにより使い道を失った森林資源を活用するため、国は2010年「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を制定。当時木造でつくられることが少なかった公共建築物にターゲットを絞り、木材利用の促進をはかってきた。
2021(令和3)年には同法を改正。「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市(まち)の木造化推進法)」に名称を変えるとともに、法の対象を公共建築物から建築物一般に拡大。ビルなどの非住宅分野や中高層建築物の木造率をあげることをねらいとして取組みを進めてきた。
「ほぼ非木造」の部分に木造の新たな需要を見出すというのが“都市木造”のねらいでもある
2023(令和5)年の木造建築物の着工状況(※1)は
・3階建て以下の低層住宅の木造率 82.6%
・低層非住宅建築物の木造率 14.7%
・中高層建築物の木造率 住宅・非住宅ともに0.1%以下
よく目にするようになったとはいえ、中高層建築物の木造率は0.1%に満たないのが今の状況。ただ、床面積で見ると前年比で約2万,600m2増加しており、過去10年間増加傾向で推移している。
「従来の日本では木造建築といえば一戸建て木造住宅が主流でした。しかしこれから先は人口が減り、木造住宅の需要が減少することは明らか。木材の新しい需要について模索していく中で、住宅ではないものを木造にするというアイデアが生まれました。建築需要がある都市で非住宅のものといえばビル。都市部の場合、低層のビルでは土地の価格と釣り合いがとれないため、床面積を多くとれる高層木造ビルが建てられているのです」
③.“都市木造”は巨大な貯木場。木ならではの循環に目を向ける
「せっかく木を使うなら地元の木を使おうと、地産地消がうたわれてきましたが、森林資源が豊富な地域には建設需要が少ないのが実情。地域だけで木材を消費するには限界があります。これからは地産地消ではなく地産都消。建築需要の大きい東京、大阪、札幌、名古屋などの都市が周辺地域の木を消費する新しい循環のモデルを作っていく必要があります」と腰原氏。
さらに、「伐採した後に植えた木はまた50年経たないと使えない。その間に木材が枯渇することも考えられます。そうなった場合、“都市木造”を壊して住宅を作るということも可能です。都市に木造の高層ビルがあるということは、巨大な貯木場があるということ。解体後は住宅用の柱・梁として再利用でき、さらに住宅を壊したら家具につくりかえたり、最後はバイオマス発電の燃料にしたりといった、木には木ならではの循環があります。伐採してビルをつくったら終わりではなく、その後の循環ということにも目を向けると、“都市木造”にはさまざまな可能性があるといえるのです」と話す。
ちなみに、冒頭で紹介した住友林業株式会社の「W350」計画では、木材使用量が18万5,000m3となる予定。これは、構造材のみで試算した場合、同社木造住宅の約8,000棟分に相当するという。
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